株式会社ノヴィータ 相談役の小田垣栄司さんと、弊社代表理事の守本陽一が「ケアとビジネスの交差点で見つけた新しい未来」をテーマに、対談をいたしました。
対談者
・守本陽一(ケアと暮らしの編集社代表理事)
・小田垣栄司(株式会社ノヴィータ相談役)
第一部
守本:今日はお話できて嬉しいです。実は小田垣さんが、豊岡のまちづくりに関わる話をされていたのを読んで、すごく興味を持ったんです。僕自身も地方で活動しているので、その経験から何か学べることがあるんじゃないかと思いまして。
小田垣:こちらこそ、呼んでいただいて光栄です。僕も18歳で豊岡から離れ、そして戻ってみて豊岡のまちの変化を見てすごく驚きました。豊岡を再び知ったのは東京です。仕事で丸の内に行った際に偶然に「豊岡エキシビジョン」の開催に出くわしました。そこで改めて豊岡の人たちに出会って、「こんなイケてることを豊岡『が』やっているのか!」と驚いたんですよ。それがきっかけで、こんなに田舎にも面白いことがあるんだって再認識しました。
守本:僕も同じです。地元を離れていた時間が長いと、いつの間にか自分の知らないところでまちが変わっていくんですよね。でもその変化に気づいた時、何か「損したな」と思う部分もあって。もっと早く知って、一緒にやりたかったなって感じるんです。
小田垣:本当にそうですね。僕も学生時代は東京で成功したらそのまま海外に行こうなんて考えていたんです。でもこのことがきっかけで「豊岡に関わろう」という想いにシフトしはじめました。このことをきっかけに、市役所の人たちが僕の東京オフィスに頻繁に来てくれて、豊岡のまちを変えようとしきりに話しかけてくれたんです。
守本:豊岡市役所の方々って、本当に熱心ですよね。僕も地方で活動する中で、市民や行政が一体となって動くことが、まちを活性化させる大きな要素だと感じています。
小田垣:そうなんですよ。でも、行政の提案が全てうまくいくわけじゃない。当時はビジネスの最先端を走っていたので、行政が持ってきたアイデアはどれも「もうそれやり終わってるよ」という感じで断っていたことも多かったんです。
守本:そうですね。僕も、自分の活動を通じて感じるのは、何かを提供したいと思っても、そのサービスが必要な人に届くのはなかなか難しいということ。特に日本は「申請主義」なので、利用者側が利用したいと言わなければサービスにアクセスできない。でも、助けを求めるのが難しい人も多いですし、そういった方々にどうやってアプローチするかが重要なんですよね。
小田垣:その通りです。実際に現場で活動していると、プライドや知らないことが壁になって、なかなか助けを求められない。だからこそ、僕たちはビジネスの観点からも、どうやってその壁を壊していけるかを考える必要があると思っています。
守本:僕も、ビジネスとケアが交差するところにこそ、新しい解決策があると思っています。特に僕らのような地方都市では、単に物理的な場所を提供するだけでなく、そこにコミュニティや安心できる居場所を作ることが重要だと思うんです。
小田垣:そうですね。単なるサービス提供ではなく、人と人が繋がる「場」を作ることが、結果的にまちを元気にしていくんだと思います。それがまさに豊岡で起きていることですし、そういう場をもっと広げていきたいですね。
対談はまだまだ続くが、豊岡というまちを中心に、ケアとビジネスが交わる場所で新たな価値を見出している二人の視点から、多くの示唆が得られる。地元への関わり方や、人と人が繋がる場作りについて考えるきっかけになれば幸いだ。
第二部
守本:確かに、場所やコミュニティっていうのは、ただ物理的な空間以上の意味を持っていますよね。僕も「だいかい文庫」という場所を作って、そこをただの図書館や書店ではなく、地域の人たちが安心して集まれる居場所にしたいと思っています。そこに誰かがふらっと立ち寄って、たまたま誰かと会話することで、新しいつながりが生まれる。そんなふうに、居場所が人々の心のケアにも繋がるような場所にしたいんです。
小田垣:すごく共感しますね。実は僕が豊岡で感じたことも同じで、そこにある「場」が持つ力って大きいんですよね。ただの商業施設や行政のサービス提供の場を超えて、人々が自然に集まって、何かを共有できる空間が生まれると、地域全体が変わるんじゃないかと思います。
守本:まさに。僕も、そういう空間やコミュニティがもっと増えていけば、孤独や社会的な孤立感を感じている人たちの助けになるんじゃないかと感じています。特に今の日本では、少子高齢化や都市化が進んで、孤立する人が増えていますよね。そういった中で、人と人が繋がりやすい環境を作ることが、実はとても大切なんだと。
小田垣:その通りです。実は、僕も以前は孤立感を感じていたことがあって、東京でのビジネスの中で成功を追い求めていくうちに、自分がどんどん孤立しているんじゃないかと思うことがありました。でも、豊岡に戻って、地域の人たちと関わりを持つようになると、心の中にある孤独が少しずつ解消されていくのを感じたんです。
守本:面白いですね。ビジネスの世界での成功と孤独感というのは、一見相反するように思えるけど、実は密接に関係しているのかもしれませんね。成功を追い求める中で、つい周りとのつながりを見失いがちになるというか。でも、地方に帰ってくると、そういった部分が自然と埋まっていくのかもしれない。
小田垣:ビジネスの世界では、何かを得るために対価を支払うという形が基本ですが、地方のコミュニティでは、もっと無償のつながりや助け合いがあるんです。その中で、僕自身も「豊岡に関わること自体が自分にとって価値があるんだ」と感じるようになりました。これが都会のビジネスの世界では得られないものなんだなと。
守本:なるほど。ケアの分野でも、同じことが言えるかもしれません。例えば、福祉や医療の現場では、どうしても「申請主義」や「サービス提供者と利用者」という構造が強くて、対価を払わなければサービスが受けられないという状況があります。でも、もっと無償のつながりやコミュニティができれば、ケアの形も変わっていくんじゃないかと思っています。
小田垣:その点で言うと、ビジネスとケアって実は共通点が多いかもしれませんね。ビジネスもケアも、最終的には「人と人とのつながり」が重要で、そのつながりが強ければ強いほど、ビジネスもうまくいくし、ケアも行き届くんだと思います。
守本:まさにその通りです。僕も、ビジネスやケアの現場で感じるのは、やっぱり「つながり」がすべてだということですね。そして、そのつながりをどうやって作るかが、今後の大きな課題だと思っています。特に、地方ではそのつながりを作ることが重要で、地方の活性化や地域ケアの質の向上にもつながるんじゃないかと考えています。
小田垣:そうですね。実際、豊岡でもそういったつながりを作る取り組みが増えてきていますし、それが地方全体の魅力になっていくのだと思います。僕も、これからはもっと地方の力を引き出すために、こうしたつながりをどんどん作っていきたいですね。
こうして、守本陽一氏と小田垣栄司氏の対談は、地方のケアとビジネスの交差点で生まれる新たな可能性について深く掘り下げられた。地域コミュニティが持つ力と、それがケアやビジネスの未来を切り開く鍵であることが見えてくる。地方の活性化や人々のつながりを大切にしながら、これからの社会をどう作っていくかが、私たちに問われているのかもしれない。